92歳の父と、90歳の母と・・・美術館へ
前から、父と母と約束していたことが・・・
父の好きな美術館に連れていくことだった。
過去何度か一緒に行ったことがあるけど
この3年間コロナ禍にあり
高齢者である父や母の重症化しやすい感染症のことを考えると
連れてってあげることができなかった。
また、2016年の12月、突然脳梗塞で倒れた父。
4ヶ月間の入院生活。
入院当初、身体の半分が麻痺し、身体の自由が奪われ、
ベットの上で、天井しか見ることができない父
あれから、高齢者にもかかわらず辛いリハビリを重ね
なんとか自力で立ち上がり、歩行器を使いゆっくり歩くことができるようになった。
「元気になったら」
「コロナがおさまったら・・・」
「大好きなあの美術館へいっしょに見に行こう。」
「俺が連れて行くから」と・・・・
そして昨日、その約束を実現する日が来た。
美術館では、父を車いすに乗せて
ゆっくり、ゆっくり押しながらいっしょに見て廻った。
脳梗塞の後遺症で話すこともままならない父は、
右手のひとさし指で「右」へ「左」へ、
自分の進みたい方向を指さし、
それを見て、
父の行きたい方向に車いすを押していく。
熱心に、時に深く頷きながら、1つ1つの作品を鑑賞している。
随分軽くなった父を車いすで押しながら、
あと何回、一緒にここに来れるのだろう?
そんなことを思いながら、
ひた向きに生きる強さと、
耐え忍ぶ美しさと、
あきらめの悪さと、
気丈に困難に向かっていく気骨な精神を
あなたの背中から学んできたのだと
もう一度、思い出させてもらった。
鑑賞後に、車いすから車への乗り移る時、
車のドアをいっぱいまで開け、車いすを自動車に近づけて、ブレーキをかけ
車いすのひじ掛けを上げ、足を下ろし、
身体を密着させなが、父の腰あたりに手を回し、
一緒に車いすから立ち上がった。
その後、小さく、軽くなった父の身体を支えながら、
自動車の枠で頭を打たないように、左手でかばい、
ゆっくりシートに腰を下ろし、
「とうさん、靴底を僕の手で支えるから気をつけて車に足を入れようね」
と自力で曲がらなくなった足を持ち上げて車内に入れた時、
父が小さな声で、
でもハッキリと
「ありがとう」と言ってくれた。
老いていくということは、
それにつれていろんなものを失っていくことなんだと思う。
目も衰え、遠くも近くも見えずらくなり、
耳もどんどん聞き取りにくくなる。
やがて、誰かに助けて貰わなければ、1人で何もできない時を迎えることになる。
でも、いろんなものを失ってしまうのと引き替えに、
何かとても大切なことも手に入れている気がする。
父の「ありがとう」という言葉がそのことを物語っていると
私には思えた。
ありがとう、とうさん。
それからかみさんにも
終始、母や父に話しかけてくれて
高齢の父や母の車の乗り降りでも、
率先して動いてくれて
私1人じゃ決して両親を連れていくことはできなかった。
直接、かみさんにはありがとうは伝えたけど
ブログでも、伝えたい。
ありがとう。
守田 智司
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